十年という歳月の間には、月並みではあるけれど、様々な出来事があっ
た。出会いがあれば別れがあり、心暖まる時間があれば、思いもかけない
悲しみもあった。過ぎた日々は、ふと振り返ると重なり合って、間近にも
遥か遠くにも感じられるけれど、その一つ一つをひも解いていこうとする
と、とてつもなく永い。
季節とともに私も、変わっていった。何においても真正面から向き合う
ことしかできなかった頃から、脇道に心を逃がすことを少し知った。滑稽
なくらい真剣に、出口に窮する時でも、今はそんな自分自身を勇気づけ、
楽しもうとする。パリの生活を始めてからは、赤信号も何気なく渡るよう
になり、気付かない内に変化していく自分の感情や習慣に戸惑い、また一
時々々が新鮮で、その好奇心を失うのが惜しくて、気持ちを抱えきれなく
なったこともある。その時私は、忘れることを覚えた。記憶は細胞に任せ
て、時の流れるままに。
それでも、人々のわずかな言動に一喜一憂し、人の役に立ちたいと願う
気持ちは、十年前と今も変わらない。そしていつも、ヴァイオリンがあっ
たことも。
日常と舞台のはざまを歩き、常に音に悩み、喜び、深い感動に心救われ
ることもあれば、拒絶を起こしたこともある。ヴァイオリンを奏でること
は私にとって、師であり母であり、恋人であり兄妹の様でもあり、それは
今、私自身である。ヴァイオリンから学び、音を離れて与えられたインス
ピレーションやさまざまな想いを、ヴァイオリンを通して音に還す。まる
で空(くう)から糸を紡ぎ出して、色鮮やかに時を編み込んで行くように。
そうして苦しみや楽しみを忘れたとき、一本の道となる。
これからの時間を、私がどんな風にヴァイオリンと接して行くのかは、
私にも解らない。けれど今、新たな季節の一歩をここに刻むことの出来る
幸せを、これまで私と接して下さった全ての方々に深く感謝するとともに、
今日この時間を共有して下さる皆様に、今ある私の全てを捧げたいと思う。
|
|
2002'3'10 - デビュー10周年記念リサイタル
ルトスラフスキ:スビト
フランク:ヴァイオリン・ソナタ
モーツァルト:「羊飼いの娘セリメーヌ」による十二の変奏曲
ガーシュイン=ハイフェッツ:「ポギー&ベス」より
サマータイム&女はいつもそうしたもの,そんなことはどうだっていいのさ,ベス、お前は俺のもの
ラヴェル:ソナタ(1927)