時間はいつから進むようになったのだろうか。
時計の針が止まっても、たとえ電池を抜いてしま
っても、時間が動かなくなったことは、一度もな
い。風を生み、風に揺れる草花を生み、土に眠る
蛹はやがて陽に舞い、河の流れは絶えることなく、
けれど決して元のままではないと歌われた。時間
が進まなければ歴史は生まれず、人々の心は交わ
らず、音楽が流れることもなかったのかもしれな
い。そう考えると、私たちは時間のマリオネット
なのかもしれない、とも思う。
 けれどときどき、時間は溶解する。ちょうど私
達が、紺碧の空に吸い込まれたり、夜の潮に誘わ
れたりするように、溶け出したそれは、彩に目醒
め、音に包まれ、香りの中をただよって、時を超
える夢をみる。夢の刻は点になり、点は空になり、
たゆたう波のように、いつしか回帰する。
 音をまとうとき、なぜか私はいつも、そんなこ
とを感じている。

2003'3'11 - 東京オペラシティ「B→C」リサイタル

池辺晋一郎:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(1965)
ヒンデミット:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番
パガニーニ:パイジェッロの「わが心はもはやうつろになりて」の主題による序奏と変奏曲
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番